ロシアにおける時計製造の黄金時代は18世紀末から19世紀前半。複雑機構を搭載したクロックが作られたという記録もありますが、残念ながら当時の作品はほとんど残っていません。チャイキンによれば彼のこの作品、トゥールビヨンクロックは、175年間にわたるロシアの時計史の中で初めてトゥールビヨン機構を搭載した時計です。 そして「トゥールビヨン 55 クロック」は、彼が最初に製作したトゥールビヨンクロックのメカニズムと精神を継承したもの。アブラアン−ルイ・ブレゲ、そしてロシアの時計師イヴァン・トルストイが1829年に製作したトゥールビヨン付きのポケットクロノメーター(高精度の懐中時計)からもインスピレーションを受けているとチャイキンは語ります。 文字盤の12時位置からチャイキンがデザインした「アルファ」キャリッジのトゥールビヨンのメカニズムが鑑賞できるこのクロックのムーブメント、キャリバー T.01-0 はコンスタンチン チャイキン マニュファクトリーですべて開発・製造されたもの。 外からは鑑賞できませんが、すべて古典的な技術を使用して仕上げられた芸術作品です。 そしてこのクロックを語る上で忘れてはいけない大きな特長が、モデル名の由来、11時位置のアワーインデックスが「11」ではなく「55」となっていること。この「55」とは、彼も楽しんでいたアマチュア無線で「親しい友人同士の握手」を意味する符号。この数字には彼の、自身を理解し応援してくれる人々へのメッセージが込められているのです。
- トゥールビヨンは時計の複雑機構の中でももっとも有名なものであり、高級時計の象徴でもあります。そしてコンスタンチン・チャイキンにとっても特別なもの。時計師としての彼の原点ともいえるメカニズムです。 時計製造に関する教育を一切受けたことがなかったチャイキンは2003年、28歳のときに時計師を志し、自らの手で時計製作に取り組みます。そのきっかけとなったのが、生まれ育ったサンクトペテルブルクで開催された、時計史上最高の天才時計師アブラアン−ルイ・ブレゲの人と作品を展示した「ブレゲ展」でブレゲ自身が製作したクロックでした。 そしてブレゲが発明したもっとも有名な複雑機構が、地球の重力が脱進調速機に与える影響で起きる時計の進み遅れ、つまり姿勢差を軽減するトゥールビヨン。チャイキンは最初の作品となるクロックで、このトゥールビヨン機構の製作に挑戦。まったくの独学ながら翌2004年に完成させます。