「ブレット ステンレススチール」を採用
しかも6時位置のカレンダーはレトログラード式で、火星の曆上の日付と曜日を1つのインジケーターで表示するというユニークなもの。さらにケースも、彼がかつて製作した「ルノホート」や2020年にオンリー・ウォッチのために製作した「ジョーカー・セルフィー」で使った、かつてロシアで剣に使われた素材を再現した「ブレット ステンレススチール」を採用しています。 時計の歴史で初めての、他の惑星の時刻と曆を表示できる腕時計として、時計の歴史に新たな1ページを加えたこのモデル。ユニークピースとして開発されましたが、私も手に入れたいという方はお問い合わせください。
マーシャンの日付と曜日をシンクロさせたユニークなレトログラード表示
そしてこのモデルにチャイキンは、トゥールビヨン、2017年に「ジョーカー」のために開発し彼のアイコン的なメカニズムとなった「リストモンズ」式の時刻表示に加えて、宇宙時代にふさわしい機構を組み込みました。トゥールビヨンのキャリッジは、通常の1分間で回転するのではなく、アメリカ人のエンジニアが定義した火星での時刻や曆=マーズ・タイム・プログラムに基づく「火星上の1分間=61.65秒で回転します。また表示する時間もこのプログラムに基づいた火星上での時間、つまりマーズ・タイムで、10時位置のインダイヤルはその12時間制の時表示、2時位置のインダイヤルは60分表示。つまりこの時計は地球ではなく、火星で使うためのものなのです。
人類が火星に移住する時代のために 火星時間を表示する世界で最初の腕時計
マーシャン・トゥールビヨン(ユニークピース)
トゥールビヨン(フランス語で渦巻)は、地球の重力の影響で、時計が置かれた位置によって精度が変わる「姿勢差」を減らすために1795年、時計史上最高の天才アブラアン-ルイ・ブレゲが発明した複雑機構。テンプと脱進機をキャリッジというカゴに入れて常時回転させることで姿勢差を平均化するメカニズムです。
それから二百数十年の時が経った2021年、コンスタンチン・チャイキンは、オークションハウス・クリスティーズが難病「ディシェンヌ型筋ジストロフィー」の治療法開発のための資金を集めるために年に1度開催するチャリティー・オークション「オンリー・ウォッチ」のためにこの機構を組み込んで1点だけ製作し、20万スイスフランで落札されたのがこの時計です。
ブレゲによる発明以来、トゥールビヨンはいつの時代も、もっとも魅力的な複雑機構の一つとして時計師たちの創造意欲を刺激し、さまざまなタイプが開発されてきました。同じ原理を別の仕組みで実現したカルーセル。キャリッジを片側から支えることで機構全体が空中に浮かんでいるように見えるフライングトゥールビヨン。トゥールビヨンに加えて、それを動かす力を安定させるコンスタンスフォース機構を加えたコンスタンスフォース・トゥールビヨン。そしてトゥールビヨンの回転軸を2軸、3軸に増やしてさらに姿勢差を極限まで減らすことを目指した多軸トゥールビヨン。さらに振動する複数の物体を近づけると次第に同じ周期で振動する共振同期現象を使った複数のテンプにトゥールビヨン機構を組み合わせた共振トゥールビヨン。そしてチャイキンが発明した、テンプが1秒ごとにスタート&ストップを繰り返すストップセコンド・トゥールビヨンなど。
時計の精度を向上させるという本来の目的に加えて、卓越した技術力のアピールや、メカニズムを視覚的に魅力あるものに見せるなど、トゥールビヨンが製作される目的はさまざまです。